分散型エネルギーシステムに転換
(2012年7月5日)
経済産業省の蓄電池戦略プロジェクトチームが7月4日、「蓄電池戦略」を発表しました。コスト低減等による蓄電池の普及の加速化に向けた課題を整理し、今後、実施すべき施策を取りまとめたものです。
「蓄電池戦略」では、蓄電池は、①分散電源の促進にとって核となる重要技術、②電力系統用、自動車用、防災用、家庭用など大きな市場拡大が想定される成長産業分野、と位置づけています。
蓄電池戦略の目標
「蓄電池戦略」は、2020年に世界全体の蓄電池市場規模(20兆円)の5割のシェアを日本企業が獲得することを目標として掲げました。ちなみに現在のシェアは18%です。
内訳は、大型蓄電池35%、定置用蓄電池25%、車載用蓄電池40%を想定しています。
なお、現在の蓄電池の世界全体の市場規模は、次の通りです。
蓄電池 | 世界の市場規模 |
---|---|
リチウムイオン電池 |
1兆2,000億円 |
NAS電池 |
200億円 |
ニッケル水素電池 |
2,500億円 |
鉛蓄電池 |
3兆7,000億円 |
※ NAS電池が2010年、他の3つは2011年。矢野経済研究所、富士経済調べ。
国際エネルギー機関(IEA)による電力系統用の大型蓄電池導入ポテンシャル予測(2009年)では、世界の蓄電池需要は、2020年に約50GWまで拡大するとされています。
蓄電池戦略がめざす日本社会の方向性
「蓄電池戦略が目指す社会像」について、次のように述べています。
原発依存度を低減し、化石燃料依存度を下げるべく、省エネルギーを進めるとともに、再生可能エネルギーや蓄電システム等にエネルギー構造の重点を大きくシフトしていく。
国民一人一人がエネルギーの需要家であると同時に、エネルギーの生産者として再生可能エネルギーや蓄電システムを駆使することで、従来の「集権型エネルギー」から「分散型エネルギーシステム」に転換していく。
具体的には、次のような方向を示しています。
- 非常時でも安心な社会をつくるため、住宅やビルについては、建設段階から蓄電池を備える。
- 特に病院や学校など公共施設を新たに建設する際には、太陽光や風力などの再生可能エネルギーなどと組み合わせて、蓄電池の設置を原則とする。
こうして、非常時に電力供給が停止した場合でも、一定期間、一定の地域で自立的に電力供給を可能とする社会をめざすとしています。
蓄電池の果たす3つの役割と必要性
「蓄電池戦略」では、蓄電池の果たす役割と必要性について、3つの点から強調しています。
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が7月よりスタートしたことにともない、短期・中期に太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの導入拡大が想定されます。場合によっては、系統の安定性が損なわれたり、系統で吸収できない電力が余剰となり、活用できなくなる恐れもあります。
その解決のために「蓄電池を設置・活用し、逆潮流電力量を調整することによって、余剰電力を無駄なく活用することができるものと考えられる」としています。
現在、ピークカット・ピークシフト対策には、揚水発電が利用されています。蓄電池は、現在のところコスト面で問題があるものの、それが解決されれば、技術的には蓄電池の方が優れています。立地制約が少なく、建設のリードタイムが短いからです。
揚水発電の建設リードタイムは約15~20年ですが、蓄電池は約1年で稼働できます。
次世代自動車(電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車)市場で、中長期的に市場獲得をめざす方針が示されました。
電気自動車、プラグインハイブリッド自動車の普及
現在 | 目標 (2020年) |
|
---|---|---|
新車販売台数に占める割合 | 約0.4% | 15~20% |
航続距離 | 120~200㎞ | 2倍 |
インフラ整備 | ― | 普通充電器200万基、急速充電器5,000基 |
燃料電池自動車の2015 年市場投入と環境整備
- 燃料電池車の2015年の4大都市圏(東京、名古屋、大阪、福岡)での市場投入。
- 2015年までに4大都市圏で100 カ所の水素供給設備の整備。
蓄電池普及の課題
蓄電池は、生産コストが高い弱点があります。NAS電池が約4万円/kwh、鉛蓄電池が約5万円/kwh、ニッケル水素電池が約10万円/kwh、リチウムイオン電池が約20万円/kwhと、高コストです。
蓄電池は用途によって、電力系統用の大型蓄電池、定置用蓄電池、車載用蓄電池があります。それらの課題と今後の目標について、「蓄電池戦略」の中でどのように示されているか、概要をまとめておきます。
電力系統用の大型蓄電池
電力系統の安定化を図る方策として、現在、揚水発電が活用されています。低コスト、長寿命だからです。
揚水発電の導入コストは、約2.3万円/kwh。蓄電池の導入コストと比べると、はるかに安いのです。、
耐用年数も、揚水発電は約60年。NAS電池が約15年、鉛蓄電池が約17年、ニッケル水素電池が約5~7年、リチウムイオン電池が約6~10年とされていますから、揚水発電は蓄電池に比べると、はるかに長寿命です。
「蓄電池戦略」では、大型蓄電池の技術開発を推進するための目標を次のように掲げました。
- 揚水発電と同額の設置コスト(2.3万円/kWh)の達成。
- 発電所単位等に設置する場合、1ヵ所あたり数万kwh~100万kwh級の容量、定格出力付近で数時間(6~7時間)の連続充放電の可能化。
定置用蓄電池
リチウムイオン電池、鉛電池、ニッケル水素電池がありますが、価格低減ポテンシャルが高いのは、リチウムイオン電池です。
リチウムイオン電池は、エネルギー密度の向上など、技術進歩の余地があり、、需要拡大によるコスト低減が見込まれています。
「電池関連市場実態総調査2012」(富士経済)によれば、2016年の価格は、2011年と比べて、、鉛蓄電池が93.9%、ニッケル水素電池(大型)が91.7%、リチウムイオン電池(産業用)が54.5%。5年間で約半分の価格にまで低下するとみられています。
リチウムイオン電池の最大の問題は、導入コストです。現状では、容量2kwh程度で100~180万円程度。コスト回収には、10~15年程度要するとされています。
「蓄電池戦略」では、今後の施策について次のような点が示されています。
- 補助金で民間需要拡大による蓄電池の普及を後押し。量産効果によるコスト低減を図る。
- 地域の自立分散型防災拠点等への蓄電池の整備を図る。
- イニシャルコストが高いことによる購入者の抵抗感を取り除くため、リースを活用した販売ビジネスを促進。
車載用蓄電池
現在、蓄電池の主な用途は車載用ですが、電気自動車の航続距離は120~200km。航続距離の向上とコスト低減化が必要です。
そのため「蓄電池戦略」では、車載用蓄電池産業の設備投資や研究開発の促進が必要とされています。
また、V2H(Vehicle to Home:車載用蓄電池に貯めた電力または燃料電池で発電した電力を家庭用に利用)の普及、充電設備・水素供給設備等のインフラ整備等も必要とされています。
経済産業省「蓄電池戦略」(2012年7月)はこちら
資源エネルギー庁のWEBサイトにリンクしています。
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