2030年に原発18~19%で調整
(2015年4月17日)
政府は、2030年の電源構成について、原発の割合を18~19%で調整を始めました。4月中に電源構成比率を話し合う有識者委員会での取りまとめをめざし、5月中に決定する方向です。
当初、経済産業省は、経済界などの意向を受けて、原発比率を少なくとも2割確保することをめざしていました。しかし、昨年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画で「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」と明記していることから、東日本大震災と福島第1原発事故が起きた2010年度の原発比率(28.6%)と同じ20%台では、世論の理解を得られないと判断し、18~19%を軸に調整に入ったようです。
20%台にのらないよう1~2%だけ引き下げるという、何とも姑息なやり方です。世論は「原発ゼロ」を求めています。これから15年先の2030年に、原発が約2割を占める電源構成でいいのでしょうか。世界の流れからいっても、原発ゼロが当然です。
現に今は、原発ゼロです。全ての原発が停止して1年半以上になりますが、原発を稼働させなくても電力は賄えています。政府は今年の夏も節電の数値目標設定を見送りました。3年連続です。この事実1つとっても、原発再稼働が必要ないことは明らかです。
再生エネは20%台前半
一方、再生可能エネルギーは、20%台前半で調整が進んでいます。太陽光と風力は、いまの約2%を10%に引き上げ、大規模なダムを造れない水力や、環境影響評価に時間がかかる地熱は、いまと同程度の10%を見込んでいます。
20%を大きく上回るところまで導入するには、送電網を整備するのに費用がかかり、電気料金が上がることを重く見て、20%台前半で調整しているようです。
エネルギー基本計画では、従来の「2030年に約2割」から「さらに上回る水準」に引き上げる目標を掲げました。ぎりぎりクリアする水準です。
自民党・経済界の提言
自民党は原発20%超を提言
自民党は、今月7日、2030年の電源構成について、ベースロード電源を東日本大震災前の約6割まで引き上げる提言を安倍首相に提出しました。電源別の具体的な比率は明示していませんが、ベースロード電源が6割ということは、事実上、原発2割超を求めているのと同じです。
現状(2013年度)、ベースロード電源は4割です。簡単にいえば、足りない分は原発でまかなうということです。
電気事業連合会のデータによれば、2010年度の電源構成比は、原発29%、石炭25%、水力・地熱9%。2013年度は、原発1%、石炭30%、水力・地熱9%です。
二酸化炭素の排出量を削減しなければいけませんから、石炭を増やすことはできません。水力・地熱も自然環境への配慮から大幅な増加は難しいとされています。となると、石炭と水力・地熱で40%弱ですから、原発は20%超ということになります。
エネルギー基本計画では、ベースロード電源を「発電(運転)コストが、低廉で、安定的に発電することができ、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源」とし、「地熱、一般水力、原子力、石炭」をベースロード電源と位置付けています。
経団連は原発25%超を提言
経団連は今月6日、「新たなエネルギーミックスの策定に向けて」とする提言を発表し、原発は25%超、再生可能エネルギーは15%程度が妥当とし、ベースロード電源比率は62%超とするよう求めました。
また、原発を25%超とするために、古くなった原発の建て替え(リプレース)や運転期間延長などを求めています。
経団連は、今年1月に「経団連ビジョン」を発表し、原発を重要なベースロード電源として活用し、総発電電力量の25%超をまかなうことを求め、原発のリプレースも強調しています。
経済同友会は原発20%下限を提言
経済同友会は3月24日、「わが国における原発のあり方」において、「原発依存度は可能な限り低減させるが、2030年時点では20%程度を下限とすることが現実的である。2030年以降は、より安全性の高い技術に基づくリプレース等も含めた柔軟な検討を」と求めています。
経済同友会は、「縮原発」の方針から、原発推進へ踏み込みました。
日本商工会議所は原発25%程度を提言
日本商工会議所は今月16日、「中長期的なエネルギーミックス策定に向けた基本的考え方」を発表しました。
「電力の低廉・安定供給の早期回復が必要」として、「安全が確認された原子炉は40年を超えて最大60年まで稼動させることに加え、少なくとも建設中の原子力発電所の運転開始等によって、2030年時点における比率は25%程度とすべき」と求めています。
ベースロード電源そのものが問題
政府は、原子力をベースロード電源と位置付けていますが、その考え方そのものが問題です。極めて危険性の高い原発が、なぜベースロード電源なのでしょうか。なぜ、太陽光や風力など再生可能エネルギーがベースロード電源ではないのでしょうか。
この点については、日経新聞でさえ(こういうと語弊があるかもしれませんが)社説で次のように語っています。
10年前ならこうした考え方に説得力があったかもしれない。だが状況は変わった。…ドイツなど欧米では太陽光や風力発電などを積極的に電源に組み入れており、その傾向が将来さらに強まるのは間違いない。
(日経 2015年4月7日 社説)
福島第1原発事故から5年目になっても収束の見通しが立たず、いまも12万人近い福島県民が避難生活を強いられています。原発は、事故が起きたときには甚大な被害をもたらします。
費用も決して「低廉」ではありません。廃炉の費用や事故対策の費用も考慮されるべきです。放射性廃棄物の最終処分にいたっては、処分の方法さえ確立していません。そういったものを含めると、いったいどれだけの費用がかかるのか、算出することさえできません。
再生エネ発電設備については、買取期間終了後の廃棄・リサイクル指針の検討を開始しましたが、原発は、造って運転して、その後にできる危険な放射性廃棄物がどんどん増えている状況です。
そんなものが、どうしてベースロード電源といえるでしょうか。
まだ原発を造るつもりなのか
原発をすべて再稼働させたとしても2030年の原発の電源構成比は15%程度といわれています。原発20%を達成するには、現在40年で廃炉とされている運転期間を延長したり、規模の大きい原発への建て替え(リプレース)、さらには新増設も必要ということになります。
ドイツは、福島原発事故があったからこそ、脱原発に方向転換しました。事故を起こした当事国の日本が、いつまでも原発に依存していていいのでしょうか。
原発ゼロを前提に、再生可能エネルギーをさらに増やす方向で電源構成を検討することが必用です。
2015年6月1日の経済産業省「長期エネルギー需給見通し小委員会」で、2013年度の電源構成について、政府案が了承されました。パブリックコメントを経て7月中にも決定される方向です。
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