原発固執、再生エネ抑制の政府案
(2015年6月2日)
経済産業省の「長期エネルギー需給見通し小委員会」が6月1日、2030年度の電源構成(エネルギーミックス)を示した政府案「長期エネルギー需給見通し(案)」を了承しました。
原発は20~22%、再生エネは22~24%。原発に固執し、再生可能エネルギーを抑制するものとなっています。パブリックコメントにかけ、7月中にも正式に決定される方向です。
経済産業省は、7月16日に原案通り決定しました。
2030年度の電源構成 政府案
政府案は、「経済成長を支えるエネルギー需給構造を構築する必要がある」として、原発を重視する方向を明確に示しました。「ベースロード電源比率は56%程度」となります。
電源別に見てみましょう。
再生可能エネルギー
- 地熱、水力、バイオマスは、自然条件によらず安定的な運用が可能なので、積極的に拡大する。
- 太陽光や風力は、自然条件によって出力が大きく変動するので、国民のコスト負担が許容可能な範囲で最大限導入する。
再生可能エネルギーは、地熱、水力、バイオマスは、今後も積極的に拡大する方向ですが、太陽光や風力は、「コスト負担が許容可能な範囲」に抑制する方向が示されました。
また、固定価格買取制度については、太陽光に偏った導入が進み、国民負担増大を招いたとして、「制度の見直しを行う」としています。
化石エネルギー
- 石炭火力・LNG火力は、高効率化を図り、環境負荷の低減と両立しながら、有効活用を推進する。
- 石油火力は、緊急時のバックアップ利用も踏まえ、必要な最小限の量を確保する。
二酸化炭素を最も多く排出する石炭火力発電は、「有効活用を推進する」として26%も見込み、地球温暖化対策にも逆行するものとなっています。最近の石炭火力発電所の建設ラッシュは、こうした政府の姿勢に裏付けられています。
原子力
- 原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。
- 国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む。
- 円滑な廃炉や核燃料サイクル事業の安定的・効率的な実施等のための原子力発電の事業環境整備を図る。
なお、「注意書き」で「原子力発電比率は、2030年度時点における電源構成上の見通しを示したものであり、個別の原子力発電所の安全性に関する原子力規制委員会の審査に影響を与えるものではない」とされていますが、規制委員会の審査に影響を与えることは必至です。
原発の運転期間は、法律(原子炉等規制法)で40年と定められています。仮に全ての原発を再稼働させても、古い原発は次々と廃炉になります。そのため、15年後の2030年時点では、建設中の原発を含めても15%程度にしかなりません。
ただし、原子力規制委員会の認可を受ければ、1回限り最長20年間延長することができるとされています。
運転期間の延長は、あくまで例外的な措置として盛り込まれたものですが、原発20%超とするために、運転40年を迎える原発に例外措置が適用されるよう後押ししていく構えです。同時に、運転期間の延長だけでも足りませんから、リプレース(規模の大きい原発への建て替え)も視野に入っているようです。
政府案では「東日本大震災前に約3割を占めていた原発依存度は、20%~22%程度へと大きく低減」とされていますが、決して「大きく低減」などとは言えません。現在は稼働していない、つまりゼロの原発を再稼働させ、運転期間を延長したり、リプレースしたりして、事実上、拡大させるものです。
4月中旬ころには、官邸サイドが、原発20%台では福島第一原発事故以前と同じになり、世論の理解を得られないと20%を少し下回る18~19%で調整していたようですが、結局、原発推進派の声が勝ったようです。
多様なエネルギー源の活用
- 住宅用太陽光発電の導入や廃熱回収・再生可能エネルギー熱を含む熱利用の面的な拡大など地産地消の取組等を推進する。
- 分散型エネルギーシステムとして活用が期待されるエネファームを含むコージェネレーションの導入促進を図る。
事業用太陽光発電は抑制の方向ですが、住宅用太陽光発電はエネルギーの地産地消の観点から推進することが示されました。
昨年度の固定価格買取制度見直しの中でも、住宅用太陽光発電電力は優先的に買い取る方向が示されています。
政府案に委員から反対意見も
有識者会議(長期エネルギー需給見通し小委員会)で政府案に反対を表明した委員もいます。
朝日新聞(6月2日付)によると、橘川武郎・東京理科大大学院教授が「政権の『原発は可能な限り低減させる』という公約と違う。原発の20~22%の実現は難しい」とただ一人、報告書案に反対を表明したようです。
また、吉岡斉・九州大教授は「震災前に戻すかのように原発と石炭は維持して、再生エネは軽んじられている」と批判したことが報道されていました。
批判的な意見に対しては、小委員会委員長の坂垣正弘・コマツ相談役が「意見が合わないところはあると思うが、3年後の見直しで議論する機会がある」と引き取ったようです。
自民党や公明党は、有識者会議に先立ち、政府案をすでに了承していました。与党が了承済みの案を有識者会議でひっくり返すのは難しかったようです。
長期エネルギー需給見通し(案)では、「少なくとも3年ごとに行われるエネルギー基本計画の検討に合わせて、必要に応じて見直すこととする」とされています。
なお、政府案は当初5月中に決定される見通しでしたが、有識者会議でまとまらず、6月にずれ込んだという経緯もあります。
再生エネのコストは国際的に下がっている
政府案では、再生可能エネルギーの導入促進が「電力コストの大きな上昇圧力」と断定しています。しかし、電気料金を押し上げているのは、おもに輸入化石燃料です。再生可能エネルギーのコストは、国際的には下がっています。普及すればするほど低下します。
そういったことを全く無視し、再生エネが電力コストを上昇させ、企業や国民など電力消費者が被害を被っているかのように描き出し、再生エネを抑制し、原発に回帰するなど、とんでもありません。
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